「本宇宙船はまもなく隕石と衝突します」
数万世帯をその腹の中に収めた宇宙船が、その宇宙船と同じほどの大きさの隕石と衝突しようとしていた。
「本宇宙船はまもなく隕石と衝突します」
宇宙船には船内にいる人々がいっせいに脱出できる装置はなく、脱出できるのはいち早く脱出装置に辿り着いた人だけだった。
人々の怒声と怒声とが混ざり合って何の言葉を使っているのか分からない。我先にとそれまで一緒に旅をしてきた仲間の服をつかみ、後ろへと引っ張り合う。無数の腕が、手が脱出装置へと伸びた。
「ママたちも乗らないの?」
宇宙服に身を包んだ12歳のマークが言った。
「ママやパパはあとで他のポットに乗るから平気よ。さ、早くしなさい」
脱出装置には大人1人しか入れない。マークとその妹は体が小さいため同じポットに入ることができた。
「どこかに出かけるの?」
宇宙服を着せられ何も知らない、といったふうにジェシカは言った。
「大丈夫よ、ジェシカ。何でもないから。ね? いい、マーク。ちゃんとジェシカの面倒を見るのよ」
すると母親の背後から、
「おい、どけ! ガキ共を降ろせ!」
マークの父は必死に押し寄せる人の波を抑えていた。マークの母は一瞬振りかえったが、またマークへと視線を戻して、
「しっかりね」
マークがうなずくと、ポットの入り口が閉めらた。
満天の星空。この惑星には大気はなく、地球のようにオゾン層で宇宙線を遮断されていない。
「お兄ちゃん。お星さまがたくさんだよ」
赤や青の点が無数にあった。小さい体に合うように作られた宇宙服を着たジェシカがはしゃいでいた。ジェシカはほんの5歳だ。分からなくても無理はない。
「うん、綺麗だね」
それどころじゃない、と思いつつもマークは自分の役目を忘れてはいなかった。
「こうすると届きそう」
両手を上に伸ばし、飛び跳ねるジェシカを見て、
「さあ、ジェシカ。行くよ」
「行くって、どこに?」
「どこかだよ」
二人は手をつないで灰色の地を踏み、小さな足跡を残しながら歩き出した。
地球からどれくらい離れたのだろう。あの宇宙船――もう壊れているだろう――は光と同じくらいの速度で進む。太陽系から脱出したことは確かだが、マークは自分がいま宇宙のどこの惑星にいるのか検討もつかなかった。
――太陽が壊れた。
人類は新たな拠りどころを探す旅に出た。そして、あの事故……。
「あれ? 同じのがあるよ」
ジェシカが指差した。その先には白い繭のようなポットがあった。
「同じのだよね?」
ジェシカはマークを見上げた。マークはじっと黙ったままポットを見つめていた。そして、母の言葉を思い出した。
マークは走り出す――そうかもしれない!
「あ、お兄ちゃん」
ジェシカもマークを追って走った。
ポットは外から中を見ることはできない。マークはポットを開けようと必死になっていたが、その開け方が分からなかった。
中から外に出たときのようにボタンを探したが、見つからなかった。
――ポシュ……
何かのきっかけで閉じ込められていた空気が吹き出た。それと同時にポットの入り口が開いた。
マークはポットの中身をのぞきこんだ。
「……」
「誰が入ってるの?」
「だめだ。見ちゃだめだ!」
マークはジェシカの視界をふさいだ。
「何も……誰も入ってなかったよ」
「ふーん」
また二人は歩き出した。
ポットの中には二人の人間がいた。完全な重量オーバーだった。二人は抱き合うようにして――
「違う。あれはママたちじゃない!」
ジェシカは驚いて、
「え? ママがいるの?」
「いや、なんでもないよ。でも、いるさ。きっとね……」
さっきの人は髪の毛が長くなかった……ような気がする。いや、長くなかったさ。
「さあ、行くよ。ジェシカ」
「どこかに?」
「うん、どこかにね」

